新人の介護職が「辞めたい」と言ったら、先輩はどう対応すべきか?
※この記事は「入職間もない新人の介護職員」と、若手のホープと目されている「中堅の介護職員」に読んでいただきたい内容となっています。
「実は私、この施設を辞めようと思っています。親よりも先に、○○さんに報告しておきます」
勤務1年未満の新人職員が、職場で唯一心を開いている介護経験5年の介護職員に言ったエピソードを紹介します。
新人の介護職員はどんなことに悩んでいるのか?
そして「辞めたい」と言われたら、先輩としてはどのような対応をしたらいいのかを考えます。
20代の年齢の若い介護職員について
20代前半で介護の世界に飛び込んできた人は、職場に慣れるのが早いのが一般的です。
言葉遣いや気配りの足りなさに「難あり」なことはあっても、ハツラツとした動きは介護高齢者に元気を与えます。
普段は意地悪なことを言うお年寄りも、若い介護職には、あまり嫌味を言いません。
おそらく、自分の孫くらいに感じるのでしょう。
また、若くてそれほど介護の経験がない人は、全ての仕事が新鮮に感じるので、例えば、オムツ交換が最初は上手くできなくて苦手意識があっても、1度でも手際良く上手にできれば苦手意識はすぐになくなります。
また、他の仕事内容に関しても、例えば、車椅子の動かし方がスムーズにできるようになるだけで、仕事が楽しくなるものです。
しかしながら、年齢が若ければ必ず仕事に慣れるのが早い訳ではありません。
そうした波に乗れない新人の介護職が「Aさん(21歳、女性)」でした。
1年目の新人介護職(Aさん)について
引っ込み思案な性格で、集団行動も苦手、中学校でも高校でも部活に入らずじまい。
高校での就職活動は上手くいかず、卒業してしばらくはハローワーク通いをしましたが、どれも3カ月の試用期間でギブアップ。
幸か不幸か、Aさんは一人っ子で、両親はいずれも公務員。
つまり、比較的裕福な家庭の娘さんです。
なので「お金を稼がなければならない」という危機感が薄く、両親も娘が家を出て行くのを嫌がるので、仕事をしなくてもうるさく言わない家庭でした。
しかし、さすがに20歳を過ぎても、仕事もせずニートでいる状態に焦りが出たのか、仕事を探しはじめ、ようやく自宅近くの『特別養護老人ホームに正職員として入職』しました。
何とか就職までこぎつけ「4カ月の壁」はなんとか越えたのですが、、、
入職から6カ月経った時、介護経験5年目のBさん(27歳、女性)に「辞めようと思っています」と打ち明けたのでした。
先輩職員Bさんは、新人Aさんに辞めたい気持ちがあることを知って驚きを隠せません。
何故なら、Bさんは、Aさんの仕事ぶりを近くで見ていて、「もの静かだけど職場に馴染んでいる」と観察していたからです。
仕事に馴染んでいるはずなのに「辞めたい」と退職を考えている理由の多くは『人間関係のトラブル』です。
そこで、Aさんが何で辞めたいのか?疑問に思ったBさんは「誰かにいじめられた?」と尋ねました。
この質問をしたのは、これまでに多くの新人が、人間関係に苦しんで辞めていったからです。
それを聞いたAさんは、仕事中にも関わらず、何も言わずに泣き出してしまいました。
Bさん「私たち介護職が最も苦手とする仕事って、実はお年寄りの介護じゃなくて、同僚との人間関係作りなんだよね。。私もこれまで何度辞めようと思ったことか」
と言いました。すると今度は
Aさん「え!?」
と言いました。
Aさんが驚いたのは、新人Aさんは「Bさんは仕事の教え方が丁寧で、リーダーからも施設長からも高く評価されている。だから人間関係の悩みやトラブルには一切縁がない」と思っていたからです。
Aさんが深刻な状態にあると判断したBさんは、Aさんに「今日さ、仕事の帰りに居酒屋に行ってみない?」と誘いました。
Aさんが職場の人と外食に出るのは、入社の歓迎会のとき以来です。またBさんも、自分から同僚を誘ったのは初めてでした。
若手の優しい介護職員は利用者が一番よく見ている
2人は勤務先の介護施設からなるべく遠くの居酒屋に行きました。
理由は単純に同僚に会いたくなかったからです。
ビールジョッキで乾杯を済ますと、Bさんが単刀直入に
Bさん「うちの施設で誰が一番嫌い?」
と聞きました。
Aさん「Cさんが苦手ですね」
Bさん「やっぱりそうか」
とうなずきました。
Cさんは10年以上のキャリアがある女性の介護福祉士で、年齢は55歳です。
仕事が早く、病気の知識も豊富なので、施設長もリーダーもCさんを頼りにしているのですが、Cさんには何の役職も付いていません。
役職が付かない理由は『人の噂が大好きで、職場を混乱させているから』です。
前に一度、入居している介護高齢者の悪口を言いふらして、施設長からきつく叱られた過去があり、『役職を任すのには相応しくない人物』と判断されているからです。
Cさんは憂さ晴らしなのか、大体半年から一年に一度、嫌がらせをするターゲットを変えています。
そのターゲットにされたのが『Aさん』なのです。
実は先輩職員Bさんも、55歳の介護福祉士Cさんと休憩が一緒になった時に
Cさん「Aってさ、仕事のろくない?すっごく迷惑してるんだけど」
と同意を求められたことがありました。
Bさんは「新人だから仕方ないですよ」と言いたかったのですが、Cさんの次のターゲットになりたくなくて、「そうですね」と相槌を打ってしまったのです。
流石にこの話はAさんに告白できませんでしたが、
Bさん「でもね、Cさんって新人さんにはいつも厳しいんだよ。それに言い方は厳しいけど、あれで教育しているつもりなんだよね」
と慰めました。
Aさん「そうですか。やっぱりBさんも、Cさんが正しいと思っているんですね」
と言いました。Bさんは慌てて
Bさん「違うの違うの。Cさんはこれまでに何度もリーダーから叱られているの。施設長なんて『今度、新人を辞めさせたら、あんたを首にするからね』って言われているし」
と取り繕いました。
Aさん「じゃあ私が辞めたら、Cさんは首になるんですね。それならやっぱり…」
と言ってまた泣き始めました。Bさんは話題を変えることにしました。
Bさん「Tさんっておばあちゃんがうちにいるでしょ。あの人がこの間『この施設でAちゃんが一番かわいい』って言ってたよ」
Aさんは顔を上げて、Bさんの目を見ました。Bさんは続けます。
Bさん「『他の介護職は、下痢便のウンチをしたときのオムツ交換を嫌がるけど、Aちゃん絶対に嫌な顔をしない』って言ってた。特にCさんは露骨に『くっさいなあ』って言うんだって」
Aさんは驚いて
Aさん「CさんはTさんに向かって『くっさいなあ』て言っちゃうんですか!?」
と聞き返しました。
Bさん「あの人ね、そういう人なの。年も取っているし、介護経験も長いけど、人間的にどうかと思うよ。施設長やリーダーもそれを分かっているから、あの人になんの役職も付けないんだよ。
でもね、いま、うちの施設、すっごく人手が足りないでしょ。そんなときにCさんが辞めたら、私たちが大変になるでしょ。だから積極的には辞めさせないんだよ。
施設長としたら、Aさんに対して『お願いだから我慢してっ』ってところだと思うよ。だって私ならこうやってCさんの悪口を言ってもなんの影響もないけど、施設長が職員を非難したら、立場上まずいことになるでしょ」
と立て続けに言いました。
Aさんは慣れないお酒に酔ったのか「ありがとうございます。」とBさんに甘えるように言いました。
取りあえずこの日は、BさんはAさんから「あと半年頑張ってみます」という約束を取り付けることができたのです。
新人介護職が「辞めたい」と言ってきたら先輩はどう対応するのが良いのか?
もしも新人が辞めたいと言ってきたら、どう対応するのが1番良いのでしょうか?
これには完璧な答えはありませんが、まずは『話を聞く時間を作ること』が1番大切です。
誘い方は「今日仕事終わってから少し話したいんだけど、30分だけ時間取れる?」で構いません。
しかし、「本音で話してくれるか?」これが難しいところですが、少なくとも「辞めたいと思っている」と相談されたのであれば、あなたには少なからず心は開いているはずです。
なので、『相手が今どう思っていて、何が嫌なのか?どうすればその問題を解決できるのか?』を話を聞いたうえで一生懸命考えてあげましょう。
育てた人材が辞めてしまうのは、施設にとっても大きな損害です。
どれだけ新人の教育・指導に時間を使ったかは、それぞれ異なるでしょうが、教えた人間が施設を去ることほど大きな損失はありません。
ただでさえ人手不足が問題視される介護業界では、スタッフが1人欠けるだけでも仕事が上手く回らなくなる懸念もあります。
新人を教育・指導する立場にある人は、若い人たちができるだけ働きやすくなるように指導したり、風通しの良くなるよう人間関係をコントロールすることが何よりも大切です。
広い心で若手を育てる気持ちが大切
若い介護職が、入社後1年以内に退職すると「やっぱり、ゆとり世代は・・」と批判したくなる気持ちも分かりますが、若者は若者なりに苦労をしています。
また中堅の介護職も、若手とベテランの間に挟まれて、どちらの味方に付くこともできずに身動きが取れない場合もあります。
本当は、10年以上のキャリアがあるベテランの介護職員に大きな心を持って、若手と中堅を育ててほしいところなのですが、ベテランはベテランで不満を持っていることが多いのです。
ですが、介護職の経験が長ければ、ストレス発散や息抜きでコントロールできますが、1年目や2年目の新人ではトラブルに遭った際の問題解決能力は無いに等しいです。
だからこそ、先輩職員がフォローをし、広い心を持って新人に接してあげることが大切なんじゃないでしょうか。